介護士としての体験談-Yさんの脅迫

私が働いていた特別養護老人ホームにYさんという男性の方がおられました。とても体格の立派な方で、足が変形しているためご自分で立つことができません。寝返りは自分でうてるので、ごろごろと寝返っては床に落ちることもしょっちゅうです。そのたびに、

「誰かー! 助けてくれー!」

と大声で叫ぶ、「元気な寝たきり」の方でした。

 

Yさんは認知症があるため、ご家族の方や介護士は「顔の区別はついても名前や自分との関係性はわからない」といった状態です。そのため、お見舞いに来られた息子さんに事業資金の借り入れ(Yさんは元社長さんです)を申し入れたり、若い介護士をお孫さんと間違えてお小遣いをあげようとしたりすることがありました。

 

ある日いつものようにベッドから落ちたYさんを私が救助しにいくと、Yさんは怪我防止のために敷いたマットの上でこちらを睨みつけました。

「お前!なんでもっと早く来てくれなかったんや!わしを見捨てるんやったらな、わしはあのことばらすぞ!」

 

当然、私のほうに「あのこと」の心当たりはありません。今日はずいぶん不穏だなあと思

いつつYさんをベッド上に戻す準備をしていると、とんでもないことを言い出したのです。

「お前!お前、あちこちに女作って遊びまわっとるやろ!お前の女房にばらしたるからな!嫌やったら早よ助けろや!」

嫌やったらも何も助けに来たんですからもちろん助けますが、「女作って遊びまわってる」

って……。

 

どうやらこの日のYさんは、40代女性の私を男性の知人だと思い込んでおられた様子です。

介護の仕事をして認知症の方と接していれば顔や名前を覚えてもらえないのも性別を間違

われるのもよくある話ですが、浮気をばらすと脅迫されたのは初めてのことでした。